川の図書館(Book Swap Japan)

毎週日曜日(原則)、多摩川緑地公園、多摩川入口付近の木の下に現れる「川の図書館」。2020年4月、当時中学2年生だった熊谷沙羅さんがご家族と一緒に始めた、寄付された本を社会に循環させる「図書館」です。有志による本の寄付を受け付け、そしてその本を無償で貸し出すというシステム。冊数制限無し!返却期限無し!さらに返却の義務もありません!

並べられた本

寄贈される本は小説、エッセイ、ノンフィクション、文庫、コミック、雑誌、辞書などジャンルは実にさまざま。「節度ある本であれば、基本的に何でも受け付けています」(沙羅さん)

毎週通う常連さん&本を「整えたくなる」司書さんも

取材させていただいたのは、よく晴れた暑い夏のとある日曜日。いつものように常連さんや一見さんなど、たくさんの人たちが行き交います。

「本を買うときにも、ここに寄付することをチラッと考えたりします」(予定があいていれば必ず来るという常連さん)

「ここに並んでいる本も、仕事柄つい分類、整理したくなるんですよね(笑)」(司書のお仕事をしているという常連さん)

「この大きな木の下で、みなさんとお話しをするのが楽しみで来ています」(いつもはボランティア活動を楽しんでいるという常連さん)

他にもアコーディオンを演奏する人がいたり、子どもたちに絵本を読み聞かせる人がいたり。ときには外国語が飛び交うこともある、多様な人達が自然と集う場になっています。

わざわざ立川から訪れたという親子連れは、小学2年生と年長の男の子が以前に読んでいたという絵本を持ってやって来ました。

「(沙羅さんたちが参加した)立川のショッピングセンターで開催されたイベントでここの存在を知り、一度来てみたいと思っていました。古本として『売る』という選択肢もあるけれど、子どもたちが小さい頃に何度も読んだ思い出の絵本。譲るのであれば、本が好きな人に届いて欲しいと思ってここに持って来ることにしました」

本を通して、誰かとつながる魅力を感じられる場にもなっているようです。

川の図書館に集まっている人
沙羅さんの弟の大輔さん

沙羅さんも弟の大輔さんも人見知りしたことがないという、とてもフレンドリーな人柄。ここへやってくる人たちに、気さくに話しかけています。自然とコミュニケーションが生まれ、取材した日も、気がつくとところどころで人の輪が作られていました。

内容についての付箋が張られた本

「本に飢え、つながりに飢えた」休校期間

「川の図書館」を運営している沙羅さんに、活動を始めたきっかけを伺いました。

「2020年3月、コロナで突然学校が臨時休校となりました。その後6月に学校が再開するまで、人と関わることができない日々が続きましたよね。それまでの私は学校生活や部活動で忙しく、さらに反抗期まっただ中!家族もそれぞれ忙しくて、家でもそれぞれが自分の部屋で過ごすことが多かったです。でも、社会との関わりが途切れたことで、家族と顔を合わせる時間が一気に増えました。家族で話をする中で『今の時期にしかできないことがやりたいね』ということになりました」

「そこでふと思い浮かんだのが、時間があれば通っていた大好きな図書館でした。コロナ禍で図書館も休館になり、大好きな本に出会えなくなったことが辛かったのと同時に、いつも図書館にいた人たち…新聞を読んでいたシニアの方やベビーカーを押しながら子ども向けの絵本を選んでいた親子などは今どうしているのだろう?私のように本に飢えていないかな?と思うようになりました」

そんなとき、アメリカのワシントン州を訪れた際に見かけた「リトルフリーライブラリー」のことを思い出したという沙羅さん。リトルフリーライブラリーとはその名のとおり「小さな図書館」、無人で、自宅の庭先などに小さな箱を設置して本を並べ、無料で貸し出すというものです。

「同じように無人で自由に本を貸し借りできる場所を作る事ができないかと検討しましたが、色々と課題があることがわかりました。がっかりしましたが『私がオーナーになれば実施できるのでは』と思いついたんです。家族に相談したところ、協力して一緒にやろうと背中を押してくれました!」

「川の図書館」を通じてたくさんの出会いが

「川の図書館」を開いたことで、地域の人とのつながりが増えたと話す沙羅さん。

「それまでは地域のお祭りや運動会などに参加することはあっても、人とのつながりを実感することはありませんでした。ここでは本を寄附してくれる方、準備や片付けを手伝ってくれる方などとのつながりがどんどん広がっていると感じています。実はこの看板も、常連さんが描いてくれたものなんです!」

本を開いた形の「川の図書館」の看板

なんて素敵な看板!多摩川の美しい水面や鮮やかな木々の緑、行き交う人々がとても魅力的に描かれています。

「この場所では、四季折々の変化を肌で感じることもできます。春は桜が咲き、夏は草木が育ち青々とします。秋には草木が秋色になり、冬は冷えてとても寒くなります(笑)。実は寄贈される本でも季節を感じられるんですよ!春は参考書やビジネス書が増えたり、夏には絵本が増えます。秋には小説などじっくり読める物、冬は常連さんが寄贈される大人向けの本が多い傾向があります」

 

本を運ぶ男性

みんなで本を運んでいる

集まった本の整理や準備には時間がかかりますし、何より本を運ぶのは大変な力仕事です。

「『川の図書館』に行けば必ずおしゃべりができてコミュニケーションがとれる、本に出会えると開催を待ってくれている人がいる。そう思うと、どんなに忙しくても大変でもやりたいと思う気持ちが勝ります。それに、毎週日曜日の10時から12時までの2時間は、家族が一緒にいられる時間でもあり、それも私にとってとても大切なことなのです。これからも、ここで生まれたたくさんのつながりを大切に、地域の人や家族と、わいわいと楽しく自由に過ごせたら良いなと思っています。興味のある方はお気軽に足を運んでくださいね!」

取材・執筆・撮影:コサイト編集部(NPO法人ちょうふ子育てネットワーク・ちょこネット)

川の図書館(Book Swap Japan)

※雨天中止、最新情報はTwitterにてご確認ください。

 

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