多摩川沿いにある調布市染地は、シンボリックな給水塔が印象的な多摩川住宅と戸建ての住宅が立ち並ぶ、緑豊かで閑静な住宅街です。今、この地域では高齢化が進み、子育て中の人たちは夫婦共働きがほとんど。しかし1年ほど前から、忙しいはずの現役世代が中心となり、地域を盛り上げようとイベントが数多く開催されるようになりました。

そんなムーブメントを仕掛けているのが、地域で活動するNicotto(にこっと)。代表を務めるのは4児の母で助産師の関久美子さん(以下クミコさん)

活動紹介のチラシにはこのように書かれています。

「Nicottoは、地域の人たちと手を取り合いながら、みんながキラキラワクワクする居場所づくりをしています。狛江や染地を愛してやまない仲間と共に、いろいろなイベントを企画しています。高齢化が進み孤立が進むこの地区。核家族で孤育てをしているパパやママ。どうしたらお互いに手を取り合うことができるかを考えています」(抜粋)

活動開始からあっという間に多世代を巻き込み、気づいたらこの1年だけで15回以上のイベント(勉強会は除く)を企画開催しているという怒涛の勢い!クミコさんの熱い思いに賛同する仲間も続々と集っています。

 

中心メンバーのみなさん(写真左から、まほさん、里美さん、代表のクミコさん、ゆうとさん、こだまさん)

「私は子どものころから染地に住んでいるので、地域への思いはとても強いんです。というのも、実は私は若いときに子どもを出産したのですが、『若いママだから』と思われたくない一心で、ものすごく頑張っていたと思います。必死で『子育ての正解』を探していたように思います。そんなときに助けてくださったのが地域のみなさんでした。会えば『くみちゃ〜ん、元気?』と声をかけてくれる…。それだけのことかもしれませんが、私にとってはとても大きなこと。精神的に孤立せずにすんだと感じています。だからその恩を地域に返したいという思いが、とにかく強くて!」(クミコさん)

始まりは2023年10月19日の映画「うまれる」の上映会でした。その映画会に行ったのがきっかけでNicottoのメンバーになったのが、まほさんです。

「映画上映会で、クミちゃんに初めて出会いました。体育案には子どもから高齢者までたくさんの人たちがいて…すごいと思いましたね。忙しく働き、子育てもしているのに地域のためにこんなに一生懸命になって。思いを聞いて『何か手伝えることがあるなら手伝わせて、一緒にやるよ』と言ってしまいました(笑)」

「私はいずれ、地域に助産院を開きたいと思っています。(子育ても含め)困っているときに行政に相談するより、まずは身近な人に頼れることが大事だと思うのです。助産師として仕事をしている中で気になっているのは、『(出産後退院して)家に帰ったら一人なんです』『夫婦ふたりで頑張ります』という人たちが多いこと。保育園入園前は地域とのつながりも少なく孤立しがちです。だから、地域に赤ちゃん連れでもフラッといつでも立ち寄れる場所、何かあったらSOSを出せる場があったらいいなと思っています」(クミコさん)

働く「子育て現役世代」でも活動できる!

クミコさんたちのこだわりは「多世代を巻き込んだ子育て支援」というところ。

「染地は高齢化がすごく進んでいる地域。地区協議会、開放運営委員会で活動するメンバーもみな高齢化していて、私達世代はあまりいません。それは、子育て世代はみな働いていて忙しいから仕方ないことかもしれませんが、私はどうしても違和感を覚えてしまう。世代交代は必要だし、多世代が一緒に取り組んでいかなくては、結局はみんな孤立してしまう。私は大先輩の皆さんに育ててもらい、助けてもらいました。そこを置き去りにすることはできません。それなら、これまでお世話になった人たちを巻き込み、また次の世代を助けていく。Nicottoはそんなつなぎ役でありたいと思っています」

たとえば、クミコさんがどうしてもやりたかった「流しそうめん」のイベントでは、地域の「大先輩」にお願いしてそうめんを流す台を作ってもらいました。「しょうがないなあ」と言いながらも気持ちよく協力してくださるのだそう。忙しい子育て世代が地域で活動するためには、上手に人を頼ることも大切かもしれません。

地域団体と一緒にイベント開催

2024年10月20日に染地小学校で行われた「みんなのスポーツ&秋まつり」にも、Nicottoは共催団体として参加しました。

校庭には染地小学校PTAや染地小地区協議会、第三中学校吹奏楽部保護者会や社会福祉協議会、児童館などさまざまな地域団体がブースを連ねています。その中でも、ひときわ賑やかなのがNicotto。フランクフルトやポップコーン、かき氷や駄菓子などを子どもたちが中心となり運営していました。

オープン前、手伝う子どもたちにそれぞれの役割を伝えているクミコさん

ブース運営のメインはNicottoの子どもたち「たのし〜!」

校庭の真ん中にはシャボン玉コーナーが設置されています。クミコさんがとにかく楽しそうにしている姿が印象的でした。

Nicottoでは、地域のおまつりやマルシェなどのほか、勉強会や子ども食堂、赤ちゃん食堂も実施しています。

「みんなの勉強会」は、週2回、ゆうとさんやこだまさんが中心となり、地域の子どもたちが集う場を作っています。塾とは異なり、子どもたちが自主的に勉強する機会を提供していて、宿題をしてもワークをしてもOK。わからないことがあればそこにいる人に聞くというスタイルです。集まる子どもたちの年齢も小学生から高校生までさまざま。

「新メンバーはいつでも大歓迎!ウェルカムな雰囲気ですのでぜひいらしてください」(クミコさん)

「Nicottoに集まる子どもたちは、初めてのメンバーだろうがなんだろうが、分け隔てなく人に接することができます。それは私達大人がそういうムードだからかもしれません。おまつりの手伝いもLINEやインスタで発信して募ります。『一度会ったら友だちだ』みたいな、そんな雰囲気です」(クミコさん)

あらためて驚かされるのは、たった1年でここまで地域のつながりを作り、たくさんの人たちが楽しそうに巻き込まれているという現実。Nicottoの活動はますます広がり、世代を超えて人々を巻き込み、進化いくに違いありません。

取材・執筆・撮影:コサイト編集部(NPO法人ちょうふ子育てネットワーク・ちょこネット(外部サイト)

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